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          駒田信二訳−水滸伝2

■山寨の主であった王倫を成敗

<本文から> 
 林沖は王倫をとりおさえてののしった。
 「うぬめ、田舎猿の貧乏書生め、きさまは杜達どののお蔭でここへこれたのだぞ。柴大官人どのからはあれほどの援助をうけ、格別のご交誼にあずかりながら、おれをおまえに推挙なさったことにはなんのかんのと難癖をならべたて、こんどはまた豪傑のかたがたがわざわざたよっておいでになれば、またしても追いかえそうとしやがる。この梁山泊は、きさまだけのものではないぞ。きさまのようなねたみ深い胴欲者は、生かしておいてもなんの役にも立たぬわ。なんの才能も度量もないきさまごときやつを、山寨の主と奉るわけにはいかん」
 杜遷・宋万・朱貴は、すすみ出て、なだめようとするものの、連中にがっしりととりおさえられていてどうすることもできない。王倫もこのとき逃げ出そうとしたが、晁蓋と劉唐のふたりが道をふさいでいる。形勢わるしと見た王倫は、
 「ものども、どこにいる、出会え」
 とわめく。腹心の部下も、何人かいるにはいて、助けに出て行こうとはするものの、林沖のすさまじい勢いにのまれて、誰ひとりすすみ出るものはなかった。
 林沖は王倫をとりおさえてさらにしとりきりののしったのち、鳩尾あたりをぐさっとひと刺し、亭の上にたおしてしまった。あわれ、多年山寨の主であった王倫は、今ここに、林沖の手にかかってあえなく果てたのである。まさしく、度量大なれば福もまた大に、たくらみ深ければ禍もまた深し、という言葉そのままとはなった。
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■第一位を晁蓋に

<本文から>
 さて、王倫を殺した林沖は、その手に短刀を握ったまま一同を指さしながらいった。
 「わたしはもと禁軍にあった身ながら、流罪になったあげく、ここにきたもの。このたびは豪傑の方々が、せっかくここに集まってこられたのに、いかんせん王倫は心せまくねたみ深く、いいのがれをしておことわりしようとした。そのため、わたしはやつを討ちとってしまったのだが、その地位をねらったわけではない。だいいちわたしのこの器量では、官軍をむこうにまわして君側の奸を除くことなどとうていできぬ。さいわいここに晃兄貴がおられる。義を重んじて財を疎んじ、智勇を兼ねそなえて、今や天下の人々の畏敬を一身に集めておられるお方だ。わたしは義を重んじるたてまえから、今、この方を山寨の主に迎えたいと思うのだが、どうだろう」
 「頭領のお言葉、ごもっともです」
 みなのものがそういうと、晁蓋は、
「いや、それはいかん。むかしから、強い客も主をしのがず、という言葉がある。わたしは、なんといってもたかが遠来の新参もの。どうしてそんなだいそれたことができましょう」
 だが、林沖は手をとって晁蓋を床几におしつけ、
「さあ、もはやご謙遜のときではありません。したがわない者があれば、王倫が見せしめだ」
 林沖はなんどもすすめて、晁蓋を床凡につかせ、一同に亭の前で拝礼をさせた。一方、手下のものにいいつけて本案に宴席の用意をさせ、また王倫の死体をかたづけさせ、人をやって山前山後の小題目らを本寨へよび集めた。
 林沖ら一同は、晁蓋をかごに乗せ、みなで本寨へむかった。
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