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<本文から> 林沖は王倫をとりおさえてののしった。
「うぬめ、田舎猿の貧乏書生め、きさまは杜達どののお蔭でここへこれたのだぞ。柴大官人どのからはあれほどの援助をうけ、格別のご交誼にあずかりながら、おれをおまえに推挙なさったことにはなんのかんのと難癖をならべたて、こんどはまた豪傑のかたがたがわざわざたよっておいでになれば、またしても追いかえそうとしやがる。この梁山泊は、きさまだけのものではないぞ。きさまのようなねたみ深い胴欲者は、生かしておいてもなんの役にも立たぬわ。なんの才能も度量もないきさまごときやつを、山寨の主と奉るわけにはいかん」
杜遷・宋万・朱貴は、すすみ出て、なだめようとするものの、連中にがっしりととりおさえられていてどうすることもできない。王倫もこのとき逃げ出そうとしたが、晁蓋と劉唐のふたりが道をふさいでいる。形勢わるしと見た王倫は、
「ものども、どこにいる、出会え」
とわめく。腹心の部下も、何人かいるにはいて、助けに出て行こうとはするものの、林沖のすさまじい勢いにのまれて、誰ひとりすすみ出るものはなかった。
林沖は王倫をとりおさえてさらにしとりきりののしったのち、鳩尾あたりをぐさっとひと刺し、亭の上にたおしてしまった。あわれ、多年山寨の主であった王倫は、今ここに、林沖の手にかかってあえなく果てたのである。まさしく、度量大なれば福もまた大に、たくらみ深ければ禍もまた深し、という言葉そのままとはなった。 |
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