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          駒田信二訳−水滸伝1

■智深への偈

<本文から> さて、そのとき智兵長老のいうには、
 「智深、おまえはもうどうしてもここにおいてはやれなけ。わたしのおとうと弟子で、今、東京の大相国寺をあずかっている智清祥帥という人がいるが、この手紙を持たせてあげるから、その人のところへ行って役僧にでもしてもらうがよい。わたしは昨夜おまえのことを考えてみた。そこで四旬の偈をあげることにする。これは一生涯役にたつものだから、今日の言葉をよくおぼえておきなさい」
 智深はひざまずいていった。
 「どうぞその偈をお聞かせください」
 長老はつぎのように唱えた。
  林に遇って起ち
  山に遇って富み
  水に遇って興り
  江に遇って止る

 魯智深は四句の偈を聞きおわると、長老に九拝の礼をし、荷物を背負い、胴巻や腹巻をつけ、手紙をしまい、長老をはじめ僧ら一同に別れを告げて五台山をあとにした。そのまま、鍛冶屋の隣の旅龍屋へ行って泊まり、禅杖と戒刀ができあがるのを待って出発しょうというのである。
 寺の僧侶たちは、魯智深が山を出て行ったのでみな大よろこびである。長老は職人衆に、こわされた仁王像や亭をとりかたづけさせた。数日もたたぬうちに、避員外がみずから金を持って五台山にやってき、あらたに金剛像をつくり、山腹の亭も建てなおしたが、その話はそれまでとして、ここに詩がある。
■梁山泊の席次
 もっともこのように一人に何回もついやしていたら、七十回のあいだに百八人の豪傑をすべて登場させることはできない。そこで、史進、魯智深、林軒、楊志のようなスーパークラスの豪傑の物語のあいだあいだに、二線級の豪傑たちが登場する。
 たとえば第二回の史進の物語のなかに、神機軍師朱武、跳澗虎陳達、白花蛇楊春の三人が出てくる。そのあとの魯智深の物語のなかには打虎将李息と小覇王周通が登場する。そして林沖の物語では、小旋風栄進、早地忽得失貴、摸着天杜遷、雲裏金剛宋高が紹介される。もっとも小旋風柴進は二線級ではなく一線級ではあるけれど−。
 ここで、このちくま文庫の第一冊、第十五回までに登場する豪傑たちを一覧しておこう。一番上の数字はその人物の登場する回(たとえばAは史進の登場する「第二回」のこと)、続いて綽号(アダ名)、名前。カツコ内は登場したときの職業ないし身分。最後の第○位というのは、第七十一回に豪傑たちが勢ぞろいしたときの席次である。席次というのは梁山泊盗賊集団のなかでのランクである。そのランクの上に○印がついているのは天畳星、△印は地無星である。百八人は、大きく天定量二十六人、地然琴星七十二人にわかれる。天蓋星のほうが地位が上である。百八人のなかでは、天畳星が一流、地然琴星は二流ということになるが、梁山泊盗賊集団はこの下に何万人という配下がいるので、地繋星といっても大親分である。
 ごらんのように第十五回までに二十二人の豪傑が登場する。第三位の智多星呉用や四位の入雲龍公孫膠など地位の高い人物もすでに登場している。
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■第一位と第二位はボンクラ

<本文から>
 水瀞伝の成立についではいずれのちにのべるつもりだが、かんたんに言えば、この物語は何百年もかかってだんだんにできあがってきた物語である。その最初のころから晃蓋は出てきている。いくつかの変遷を経て最終的な形となった段階でものこっている。第十四回で登場してから第六十回で死ぬまで、第一位の頭目は晃蓋なのである。
 また、晃蓋が登場する第十四回に智多星呉用も登場する。この人は、登場したときには村の子供たちを集めて学問を教えている。日本で言えば寺子屋の師匠である。この寺子屋の師匠はたいへん頭がよくて、指導力がある。梁山泊盗賊集団第一のインテリである。晃蓋がリーダーのときも参謀として活躍するのだが、晃蓋なきあと、この呉用が事実上のリーダーになる。表を見てもわかるようにこの人の梁山泊集団での席次は第三位である。三番目であるにもかかわらず、なぜ、呉用が事実上のリーダーなのか。席次の第一位は宋江、第二位は慮俊義である。ではあるが、この二人はどちらもボンクラなのだ。しかも弱い。特に第一位の宋江は弱い。虞俊義は宋江よりはちょっと強いかもしれないが、ボンクラという点では宋江よりももっとボンタラである。
 強いやつやかしこいやつがいっぱいあつまった天下無敵の集団、そのトップの二人がボンクラあるというのがまた水瀞伝のおもしろいところなのである。
 水瀞伝の梁山泊盗賊集団は架空の存在であるけれども、盗賊集団というのは中国のどんな時代にも存在した。何千何万という大きな盗賊集団のなかにはかならず知識人が何らかの形で身を投じており、参謀あるいはリーダーとして活躍しているというのが歴史上の通例である。
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