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<本文から> 「わしは、この場で死に花を咲かせるつもりじゃが、わが真田一族の戦いを、このまま終わりにはさせぬ。大助、向後の徳川との合戦はおまえが引き継げ」
そう言って、さらに身を寄せ、
「城に入り、落城の騒ぎにまぎれて秀頼公を落とし、豊臣家の再興をわが真田の手ではたすのじゃ。そのための手筈はととのえてある」
そう、底びかりのする目で大助を見つめながらささやいた。
「………!」
大助は絶句した。この期に及んで、父は豊臣家の再興を真田の手ではたせと口にし、それをわが子にたくそうとしているのだ。
大助は、あらためて父の徳川家に対する怨念の深さと深謀に震撼した。まさに、真田幸隆(曾祖父)、昌幸(祖父)、幸村の三代にわたり戦国武将の間で「表裏比興の者(策士)」として恐れられた者の面目躍如だった。
「行けい!大助」
幸村は大声を上げた。
その声には、最後の大舞台に立って何々大笑しているような快活なひびきがあった。幸村は、討ち死にしかない最後の合戦を楽しんでいるふうでさえあった。 |
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