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<本文から> 西郷もまた天性正義ごのみで、篤実で、情の厚い性質であった。彼はよく役目で都内の農家を巡視して歩いたが、その際、気の毒な貧困家庭を見ると、自分の手当を割いてめぐんだといぅ。彼の手当は彼の家の生計の補助となる重要なものであるのだが、あわれむべきものを見て は、彼はそうしてやらずにおられなかったのである。
こんな詰も伝わっている。ある夜、やはり地方巡りをしてある農家に泊まったところ、厠にでも行った時であろう、その家の主人が牛小屋で泣きながら牛に何か言っているのを見た。そっと聞いていると、年貢を納めることが出来ないので、牛を売って金にかえるために別れをおしんでいるのでぁることがわかった。彼は気のどくでならなくなり、事情をよく調査して郡方に報告し、年貢を減額してもらってやったというのだ。
彼のこの性格は、必ずや迫田奉行とよく合って、彼は迫田を尊敬し、迫田はまた彼を愛したにちがいないのである。 |
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