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<本文から> 蒙古軍は、目にあまる大軍だ。射れども、発せども、あとからあとからと、船をよせて浜におり立ち、馬をおろし、打ち乗った。
彼等は決して、一騎がけしない。隊伍を組み、金鼓を合図として整々と行動する。はじめ、左方と、右方の、こちらの弓のとどかないほどの遠くに、兵を揚げ、縦に展開しつつ、じりじりとよせて来た。大きくひろげた両腕で、抱きこむ形であった。
助国は、これにたいして矢を射かけさせ、大将分と思われる、さわやかに鎧った者を四騎も、射落させたが、間もなく、敵は前面にも兵を上げた。
巧妙をきわめた戦術であった。三方の蒙古勢は、鉦と太鼓とで、連絡をとりながら、包囲の隊形となり、次第にそれをせばめて来た。袋の口をしぼるようであった。いつのまにか、十重二重の囲みの中に封じこめられて、八方から矢を射そそがれた。
「あわれや、助国をはじめとして、その子馬次郎、養子弥次郎以下、一族郎党、のこらず、戦死をとげた」
声がせまって来たかと思うと、時宗のふっくらとした感に涙が伝った。通有も同じ思いだ。胸が熱くなり、歯がきりきりと鳴った。
「更にいたましいのは、島民共だ。今は防ぎ戦う者のなくなった島に、雲霞の如くおし上って来た蒙古勢は、家という家におし入って、財宝をかすめとり、火をかけて焼きはらい、男は殺し、女はけがした上に、両の掌に穴をあけて綱をとおし、数珠のようにつないで、船のまわりにかけならべたという」
耳をふさぎたいくらい酸鼻なことであった。通有は、対馬という土地をよく知っている。いくたびかの支那往来に船がかりしており、ついこの前も、黒山島からの帰りに立寄っている。風景は奇絶、人情は純朴、平和な島だったのだ。その島が、そんなむごい目に遭おうとは!
■蒙古軍が襲い来った暴風雨のため潰滅
もし、蒙古軍が追撃をかけたら、日本軍は一たまりもないところであった。総敗軍し、太宰府は占領され、ひいては、全九州は蒙古人の蹴肺がまかせたにちがいない。九州に足場を得られたら、次は中国、四国、そして近畿
「幸運であった。幸運であった」
通有の声は、ふるえた。
智智は笑った。
「その幸運におどろくは早いぞよ。日本は、更に幸運であった。その夜半のことだ…」
にわかに襲い来った暴風雨のため、蒙古の船は瓢蕩し、衝突し合い、大部分は破壊し、覆没した。
「夜が明けて、日本勢も夢かとおどろいた。入江を覆うて、帆柱を林とむらがり立たせ、大城のように旗を立てならべていた蒙古の船の姿は消えて、あらしのなごりをのこして、まだ波の高い、濁りかえった海の至る所に、こわれた船材がただよい、岸には溺死した蒙古人共が折れ重なって、打ちよせられている。 |
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