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<本文から>
「なんたる人々か!」
赤橋家から帰って、終日、通有は不愉快であった。
不愉快の原因は、ペルシャ人等を捕えて蒙古に引渡そうとの、実兼等の計画にあった。さらにまた、その計画に加担を勧められたためであった。イマイマしくてならない。不潔きわまる汚物を、投げつけられたような気持であった。
「おれを何と思っているのだ。クサレ公家め!」
彼は、「拙者の好みでない」と言ってことぁったが、ほんとうにそうであった。理屈は、彼にはわからない。彼等のためにもなり、蒙古のためにもなり、日本のためにもなることだ、願ってもないことでないか、と、言われると、反駁のしようはなくなる。一応、
「蒙古は利用価値のある間だけ利用して、用がすめば邪魔にして殺すだろう」
と、理屈をつけほしたものの、蒙古はどの大国の王が、どうしてそんな軽薄なことをするものか、と、言われたら、自信がなくなる。
けれども、そんな理屈をこえて、心におちつかないものがある。その証拠は、この不倫快さだ。好みに合わないとより、言いようがないのだ。
とにかく、彼は不愉快であった。一晩たって、翌日になったが、まだ気持がなおらなかった。日課の棒ふりも、今日はききめがない。
「心気を洗い清める必要がある」
と、結論した。 |
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