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<本文から>
孫権の妹を、こちら側の人間にできるかどうか。それは、戦とはまた別の闘いだった。どにかく、気持をこちらにむけさせるために、毎夜、抱き続けた。鉢の喜びが、気持を、動かすだろうと思ったからである。しかし、子を孕ませないようにやった。子ができれば、それを後継に立てろと、孫権が口を挟んでくるのは眼に見えていた。
気持をこちらにむけられたかもしれない、といまでは思う。自分が、闘ったからだけではなかった。張飛の妻の、董香の存在が大きかった。
領内をかため、力をつけることに専念できる情況にはなっている。ただ、荊州南部は、戦略としては足がかりにすぎない。益州を奪る。それでようやく、曹操に対抗できる力を持てるのだ。
しかし、益州攻略は、周喩もやろうとしていた。天下二分の形勢を周喩が作ろうとしていることは、すでに明確になった。その二分の中に、劉備は入っていない。加われるとしたら、孫権の一部将としてだけだ。周喩を益州に進ませたくないとは思ったが、孔明も靡統も、いい策は出せないでいた。
周喩の準備が、着々と整っていることはわかった。水陸両面から、一気に益州を攻略してしまうつもりだ。一度動いたら、短い問に攻略してしまいたい、と周喩は考えているのだろう。一年ほどで、長くても二年で。
しかし、孔明は焦っているようではなかった。天下二分という形勢になってからも、活路があると考えているのか。
とにかく、いま周喩は止められない。
劉備は、できるかぎり焦りを表情に出さないようにしていた。関羽や張飛や趨雲ら部将たちにも、愚痴はこぼさなかった。 |
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