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<本文から> 糜竺がうつむいた。五千は、鍛えあげた兵だった。つまらぬことでは.一兵も失いないたくないという思いがある。
「どうなるか先は見えないが、一度小沛を捨てることで、事はうまく転がるかもしれん。曹操にとって、呂布は限障りだろう。足もとを掬われたこともあるのだからな」
「曹操とともに呂布を討てば、徐州は曹操のものとなります。徐州を捨てた時は、取り戻すのは難しくないと思ったのですが、思いのはか、呂布が力をつけました」
「私も同じだ、糜竺。考えている以上に、呂布は非凡な男かもしれん。戦場で勇猛だというだけでなくな」
「呂布が力をつけた分だけ、曹操の警戒心も強くなっていると思います」
曹操は、いずれ袁紹と対峠しなければならなくなる。袁紹は、荊州の劉表と結んでいた。それは、曹操の公孫サンとの結びつきよりもずっと強い。
もともと、曹操は同盟を嫌う男だ。自分に従う者を受け入れるというかたちで、ここまで大きくなってきた。それは、劉備にとっては驚嘆に値することだった。特に、青州黄巾軍百万を降した、存亡を賭けたあの戦が大きかった。
自分にはまだ、そういう秋が来ていないのだ、と劉備は思う。それなら、志を胸に秘めたまま耐え続けるしかないのだ。
「糜竺、呂布とは、完全な敵味方になることはない。曹操のもとに行っても、うまく立回れる。呂布も、本気では怒らぬ。その程度のことにしておこう。天下はまだ、ひとつの流れにはならず、方々で雨が降っては、小さな川の水嵩が増したりしている」
袁紹、袁術がいる。曹操がいる。公孫サンがいる。荊州の劉表、益州の劉璋、そして徐州の呂布。涼州では、董卓の遺臣たちが力をつけてきているというし、揚州には、袁術のかげに隠れたようにして、孫策がいる。益州でも、漢中郡だけは五斗米道の張魯が固めているという。
誰が、どの流れに呑みこまれていくのか。一戦一戦で、情勢は動く。
「まだ待とう、糜竺。幸にして、帝は許都におられ、長安におられたころより、御身のまわりはずっといいという詰も聞いた」
「曹操が、帝の権威を利用しはじめています。官位など、曹操の思うがままでありましょうし」
「曹操に、漢王室復興の意志はない、と私は見ている。それは袁紹も袁術も同じだ」 |
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