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<本文から> 三人の中では虎之助が最古参でもあれば、年長でもある。従って他の二人を引きまわすことになった。しかし、市松とは遠いながら血のつづいたなかでもあるし、市松は気性のあらい、強情ものながら、気が合ったが、左吉とはどうしてもうまく行かない。水と油のようにとけ合わないものがある。虎之助だけでなく、市松ともうまく行かないようであった。
俗に言う、虫が好かないというのであったかもしれない。
左吉はたしかにするどい才気をもった男であった。口も達者である。たとえば、秀吉から何かたずねられたりした場合、虎之助らが答えようを考えてまごついていると、横から左吉がさらさらと答えてしまう。巧みな言いまわしと、適当したことば使いは、聞いていて感心させられてしまうほどである。
しかし、そのあとでの左吉の、「見たか」と言いたげな、いかにも得意げな顔つきは、癖にさわらないわけには行かない。ツンととがった鼻と細いあごをつき出すようにして、すましている。色白の美しい顔は高慢そのもののようになる。「鼻にかける」というのを絵にかいたようである。
ある時、虎之助は市松とともに秀吉から十三、四キロの北方にある木之本に使いにやられた。 |
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