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<本文から>
すぐれた人間の知能が、鋭敏に合理の軌道をすべりだすと、それは予言者じみた適中を示すものだ。
伊達政宗は、初めて踏む敵地で、ウロウロしないために金海域をめざした。
(危険などはどこにもころがっている……)
それが戦場なのだから、せめて心柄のわかった人物の部隊と合同して向後を策そうと考えために過ぎない。
ところが、実際にそれはそのとおりになっていた。一名竹島城とも呼ばれる金海城は、洛東江西の支流の右岸にあって南・北・西の三面を水田にかこまれた穀倉地帯の要衝だ。ここを確保して、日本軍の引き揚げを容易ならしめようとした浅野勢は、敵の急襲にあって今や風前の灯にひとしい苦戦を続けていたのだ。
「どうだ。政宗のカンは確かなものだろう。ここで浅野父子を救っておいて、早く本国へ引き揚げる機会を掴むのだ」
後の一語は口にしたかどうか?
駆けつけざま浅野勢を囲んでいる敵の背後から白兵戦を挑んでいった。
策戦は図に当った。日本からの救援軍を城内に取り籠めたつもりで昂然としていた敵 は、さらにもう一隊の救援軍の伊達勢に思いがけない奇襲を受けて悲鳴を挙げて崩れだ した。
「よオし、武神はわれらにお味方なされたぞ。今だ!一挙に敵を蹴散らして、浅野父子を救い出せ!」
こうなると、浅野父子の苦戦を知って、上陸と同時にわき目も撮らず、金海城を攻め立てたことになるのだから、その信義も戦功も抜群になってゆく。
この時挙げた敵の首級が二百二十。
十三日に上陸して、十八日にはもうこの戦果をあげ、敵を慄えあがらせて敗走させたのだから、名護屋にある秀吉が雀躍して喜ばないはずはない。
「−さすがに伊達じゃ!すぐさま感状を送って遣わせ。そうか、二百以上も首級を挙げたか」
何事によらず大袈裟なことの好きな秀吉だ。さっそく口述で感状を認めさせて現地に送った。 |
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