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<本文から> 大事府の館で、少弐頼尚は饗庭宣尚とともに、ひっそりと新年を迎えた。
伺候してくる武士たちの数も、極端に少なかった。それで当たり前だ、と頼尚は思っていた。負けたのである。ただ一度と、満を持してむかった戦に負けた。運が勝敗を分けたとしか言いようのない負け方だったが、負けは負けで濁る。かつて九州忙落ちてきた足利尊氏を担ぎ、多々長浜で菊地武敏の軍とぶつかった時は、明らかに自分に運があった。尊氏に、躊躇なく賭けることもできた。九州探題などというものを、あの時尊氏が残していかなければ、そう思っても、尊氏はすでにない。
「征西府では、肥前に軍勢を出す気配。暮から正月にかけての、冬資様の動きが目立ちすぎたのではありますまいか」
「冬資はあれでよい。好きなようにやらせよ」
どう踏ん張ったところで、再度征西府に決戦を挑めるとは思えなかった。抗し難い、時の勢いというものはある。ただ、冬資はこれからも少弐一族を率いていかなければならない忍従と屈辱を拒むなら、何度でも闘い、何度でも負けるしかないのだ。耐え続ければいつかはまた運が向いてくる。それが十年さきなのか、二十年さきなのか。 |
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