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<本文から> それは、三代日の家光は、なかなか自信家だったから、自分でもいろいろ案を立てては、文書に書いて土井に示した。表現はともかく、内容にしばしば問題があった。そういうとき、土井は、前々から同じような企画を立てている部下をその場に呼んだ。そして、部下の企画書を声を出して読みながら、こんなことをつぶやく。
「どうも、ここのところは坐りがわるいなあ。もう少し考えれば、もっと坐りがよくなるのだがな」
部下に話しているようで、実は家光に話しているのだ。つまり、家光の書いた企画も同じような欠点を持っていた。しかし、それを露骨にいえば家光は気を悪くする。そこで、同じような企画を立てていた部下の企画書を読み、部下に注意するという形式をとりながら、内実は家光に諌言しているのである。
その諌言の内容は二つある。一つは、欠点をそれとなく知らせることだ。が、もっと大事なことは、「トップとしてのあなたは、こんな細かいことまでお考えになる必要はありません。同じようなことは、部下がすでに企画を立てております」ということを、家光に告げたいのである。
また同時に部下に対しては、「おまえもぼやぼやするな。家光さまでさえ、こういう案を出してくるぞ」ということを告げているのだ。こういう、一石二鳥の方式の、間接的な諌言は、土井利勝の最も得意とするところだった。 |
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