|  | <本文から> ・意地
 などである。したがってこれらの条件が満たされなければ、どんなに高額な給与を示されて
 も浪人側は決して、
 「分かりました、お仕えします」
 とは言わなかった。つまり、これだけ多数の浪人が町に放り出されてもかれらのすべてが、すぐ、
 「再就職の道」
 を歩かなかったのである。浪人たちは多彩な生き方を選んだ。もちろん再就職して、
 「売り手側の論理にそのまま従ってしまう者」
 もいた。ところがそうではなく、
 ・浪人をして身につけた精神を組織内に持ち込んで、それを組織活性化のバネにした者
 ・浪人でなければ味わえない感覚を、その大名家の政策方針のなかに取り込ませた者
 ・浪人精神を失わずに、その存在自体が他の武士たちに大きな影響を与えた者
 ・浪人精神によって感得した経営感覚や経済感覚を、その後の大名家の運営に役立たせた者
 ・市井にあって、大名家の政治・行政を指導した者
 ・市井にあって、最後まで浪人生活を貫いた者
 など多彩な生き方をした。これらの選択もすべて、
 「浪人精神」
 をモノサシにしたと言っていい。
 現在もまた、
 「浪人の時代」
 である。バブル経済が崩壊しただけではない。日本式経営が崩壊して、幾多の古い体質が世情に露呈され、批判の対象となり、早いところはその改革に努力している。しかし、全般に、
 「忠誠心」
 が薄れ、同時に、
 「終身雇用」
 のシステムも崩壊しつつある。能力主義が前面に出、ちょうど戦国時代と同じような″能力の食い合い″が始まっている。
 「大失業時代」あるいは「大転職時代」
 が、歴史的状況にまで発展している。言ってみれば、
 「大浪人時代」
 が出現した。
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