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<本文から>
「でも、おれは毎日取ってきたよ。誰も文句はいわなかったよ」
「叔父さんがそうしてくれたからよ」
「叔父さんが」
びっくりして金次郎はきいた。母はうなずいた。
「そう。叔父さんが入会権を持っている人に全部話をして、あなたが薪をとることを大目にみてくださいってたのんだのよ」
「そんな、うそだ! だって叔父さんは畠を貸してくれなかった。おれはしかたなく川の堤を耕して菜種を植えたんだよ」
「金次郎、川の堤というのはね、水を防ぐためにあるの。だから耕したりしたら、水を防ぐ力が弱くなるの。ほんとうは耕しちゃいけないのよ」
「それなら、なぜみんなだまっているんだ?」
「叔父さんが村の人や、お殿さまのごけらいに話して許可をもらったからよ。あなたのために」
「……?」
何もかもはじめてきく話だった。金次郎は呆れて母をみつめた。
(あのケチ叔父さんが?)
というきもちだった。が、母の話はスジが通っていた。山はたしかに村人全部のものだ。木は共通の財産だ。枝一本でも取ればそれは盗みになる。
(すると、おれずっと盗みを働いていたのか?)
しかもそれを売っていた。
(叔父さんはそこまで話を通しておいてくれたのか?)
堤防のことも母のいうとおりだ。固く踏みかためた堤を掘ったり耕したりすれば、それだけ堤は柔らかくなる。洪水が起きたら一ペんにくずれてしまう。
(そういうことを全部知りながら、叔父さんは、だまっておれのしたいようにさせてくれていたのだ)
母の話は、いままでのことを思い起こすと、全部心当たりがある。
(そうだったのか!)
金次郎は、はじめて叔父の温かい心を知った。ケチなどと悪態をついたのが申し訳なかった。
「お母さん、よくわかったよ。叔父さんにすぐ謝るよ」
「いいえ」
母は首をふった。
「叔父さんには何もいわなくていいわ。それより、自分のことばかり考えるのでなく、誰かさんのためになる人になってちょうだい」
「わかった。かならずそういう人になります」
金次郎は誓った。翌日からかれは生まれ変わったように、″人のため″に働き出した。 |
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