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<本文から> 「周布を殺す?」
「いや、殺すのではない。死なせるのだ」
浦はそういった。みんなにはわからない。
「殺すのではなく、死なせるというのはどういうことだ?」
首脳たちは詰め寄った。浦はこう応じた。
「周布に名前を変えさせるのだ」
「うむ?」
他の首脳にはまだわからない。浦は説明した。
「土佐藩に対して、周布は突然死んだことにする。そして周布に名前を変えさせ、しばら く謹慎させる」
「なるほど」
浦は苦労人だ。みんなようやく理解した。つまり、
・土佐藩に対しては、原因はよくわからないが、周布は突然死んだと報告する
・しかし周布政之助を現実を殺すわけでばなく、かれに改姓させてしばらく謹慎の上、ころあいをみてふたたび仕事をさせる
ということである。全員、「そうしよう」ということになった。
たとえ酒グセが悪くても、周布政之助はやはりみんなに愛されていた。幸福者であった。
「あいつは酒グセは悪いが、いまの長州藩には非常に役に立つ。かれの生命を温存させておいて、もう一度、再活用する時が必ずくる」
という思いは、浦だけでなく他の首脳にもあった。 |
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