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<本文から>
将門は切り出した。
「輿世王様は常陸風土記をご存知でいらっしゃいますか?」
「東国の国司に任ぜられて風土記を読まぬ者はおるまい。常陸はもちろん、上総、下総、武蔵など、かかわりのある国の風土記はすべて読んだ。風土記がどうした?」
「常陸風土記の中に、常陸は常世の国だという表現がごぎいます。お気づきでいらっしやいますか?」
「そんなことが書いてあったかな。それで?」
「私は、この東国にその常世の国を実現したいのでごぎいます。常世の国とは、不老不死、万代和平のこの世の理想郷でごぎいます。もちろん人の生命は限りのあるもの、不老不死など願うことはできませんが、せめて万民和平の国はできるはずだ、と」
「……」
輿世王は呆れた表情で将門を凝視した。やがて理解の色が浮いた。何かに思い当ったのだ。
「ははあ、それでわかったそ」
「何がでごぎいますか?」
「そなたが湿地に拓いている新地域だ。旧来の和人だけでなく渡来人や俘囚まで共にくらさせている。あれが常世の国づくりなのか?」
「その一端でごぎいます。常陸風土記では、常陸の国のことしか触れていませんが、常陸の国だけを常世の国にするのでなく、この下総も上総も安房も、そして武蔵の国も、東国全体を常世の国にしたいのです」
「ほう」
輿世王は唸った。
「気宇壮大だな」
「夢です」
「将門」
「はい」
「誰に知恵をつけられた?」
「は?」
「そなた一人の考えか? それとも誰か知恵者がいるのか?」
「知恵者とは?」
「たとえば都の藤原忠平」
将門は思わずあっと声をあげそうになった。さすがに興世王は鋭かった。将門は狼狽した。しかしすぐその色をかくし、平静を装った。
「とんでもない。忠平様はおかかわりありません。弟たちと相談の結果でごぎいます」
「ほう。そなたの弟たちは大した知恵者だ。ま、いい。しかしそなたの常世の国づくりが、もし忠平の命によるものだとすれば、それは都に屈服する国をまた新しくつくるというだけだ。詰らぬ」
「輿世王様」
将門は懸命な衷情で話を続けた。
「常世の国に住みたければ、都の暮しに向かない人々も受け入れるつもりです」
「敗残者の国か。私もその敗残者の一人だと言いたいのか?」
「違います」
将門は激しく首を振った。
「そういう国ができたら、その国の営みに、都から干渉してもらいたくないのです。住む人々の意志によって、国を営みたいのです」
「なに」
輿世王は目を立てた。そして笑った。が、目は光った。
「そんな大口を叩いて、もし都が不当に干渉し、その営みを妨げたらどうするつもりだ?」
「死力を尽くして戦います」
「ほう」
興世王の目はいよいよ光り出した。
「大した考えだ。しかしそれこそ謀反ではないか?」
「私は謀反だとは思いません。都の不当な介入です。この度武蔵武芝殿に味方したのもそのためです」 |
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