童門冬二著書
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          湖水の疾風 平将門・上

■常世の国には渡来人や俘因にも広げた国

<本文から>
 「ああ。しかし正直にいってあの頃は興世王様のような人のことを考えていた。俺自身都生活になじめないので夢を見ていたようなものだ。都で考えたのは常世の国といっても半分は負け犬の夢だ。いまは違う。東国に戻って、忠平様のおっしゃった夢が現実だと知った」
 将門は力強くいった。その口調に強い自信が破っているのを貞盛は感じた。将門は俘囚のことを話した。自分のところに救いを求めに来た人々の悲願や苦しみを話した。まるで将門自身が、件凶の代表者になったかのようだった。
 「俺は、常世の国づくりによってこういう人たちの役に立ちたい、と思っている。おまえにも手を借りたい」
 そういって将門は貞盛をじつと見た。貞盛も将門を見返した。貞盛には将門という人刷が急に得体の知れない存在に見えて来た。この男は一体、何を考えているのだろう? 都にいた時は碓かに東国の自治力をつよめ、都の生活に向かない人々を受け入れよう、とはいっていた。それがいまは渡来人や俘囚にまで範囲を拡げている。藤原忠平が構想しているのは、都の力の下で従順にくらす人々の国だ。独立した国をつくれということではない。常世の国といっても、あくまでも都の政権に忠実な地域を期待している。が、将門をそんな思いにさせたのは、何が動機になったのだろうか。貞盛には思い当たるところがあった。
(叔父たちが良将収父の領地を奪ったからだ。将門はそのため低湿地帯に追われた。しかし、そういう彼を励まし、この低料地瑞に適した新しい暮し方を教えたのが、きっと渡来した人々や、北から来た俘因たちなのだ。将門はその恩を感じている。だからかれらに温かく報いたいと思っているのだ)
 そう思うと、貞盛は将門の紙の知れない人刷的温かさが、何ともいえないものに思えて来て、思わず涙ぐみそうになった。
(将門は、底抜けに人の良い、おおらかな人間なのだ。純粋にそんな夢のようなことを考える男なのだ。腹の底に少しも悪気を持たない本当にいい奴だ)

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