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<本文から> このときにフツと重成が思ったのが兄正三のことだった。それは、
「島の復興はたしかに環境の整備と産業の振興が大切だ。が、同時に住む人びとの精神の復興も大事だ」
と感じたからである。重成は、
「島民の精神復興を兄に分担してもらおう」
と思い立った。旅先で弟からの手紙を受け取った正三はすぐ天草にやってきた。
兄のいう、
「水は方円の器に従う」
というのは『論語』にある言葉だ。水は自分なりの形状を持った物体ではない。容器に合わせて姿を変える。したがって正三がいうのは、
「痛んだ農民の精神がよみがえるためには、やはり環境整備が先だ。そのへんをおまえはどう考えているのだ」
ということである。重成は代官赴任以来すでに打った手や、これから打とうとしている手を率直に話した。次のような構想である。
・島内の巡回を絶やさずに今後もつづける。
・きびしい宗門改めをおこなう。
・常に民情を視察し、島民の生活向上をはかる。
・遠見番所を設け、ここに勤める役人を現地採用する。
・島内を十組八十六ケ村に分ける。
・組に大庄屋をおき、村には庄屋・年寄・百姓代をおく。
・この組織によって、代官所の発する触れの徹底をはかる。
などであった。 |
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