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<本文から>
藤吉郎は目を輝かせた。かれはこういうことが得意であり、また大好きだからだ。早速藤吉郎は台所に入り込んだ。使用人たちは嫌な顔をした。それは、使用人たちも薪の一部を盗んで自家用に使っていたからである。いってみれば薪のピン撥ねだ。藤吉郎は徹底的にそれを調べ上げた。しかし、愛嬉のいい彼がこういう嫌なことをしても、使用人たちは必ずしも藤吉郎を憎まなかった。
「木下さんなら仕方がない」
というような許容の態度を示した。人徳だ。それはいうまでもなく、わたしが藤吉郎に感じた、
「天性の人のよさ」
によるものだ。天性の人のよさというのは、そのまま、
「仏性を持っている」
ということだ。これがつまり木下藤吾郎における品性なのだ。だから、多少品行が悪くても、多くの人が許してしまう。そういう得なところが藤吉郎にはあった。藤吉郎は敏感だから、調査の過程で使用人たちの薪のピン撥ねを知った。が、かれはそのことを胸の中に納めた。そして、こういった。
「お主たちが家で必要な薪は、後でおれが何とかするよ」 |
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