童門冬二著書
ここに付箋ここに付箋・・・
          秀吉の知恵袋 曾呂利新左衛門

■藤吉郎には天性の人のよさがあった

<本文から>
  藤吉郎は目を輝かせた。かれはこういうことが得意であり、また大好きだからだ。早速藤吉郎は台所に入り込んだ。使用人たちは嫌な顔をした。それは、使用人たちも薪の一部を盗んで自家用に使っていたからである。いってみれば薪のピン撥ねだ。藤吉郎は徹底的にそれを調べ上げた。しかし、愛嬉のいい彼がこういう嫌なことをしても、使用人たちは必ずしも藤吉郎を憎まなかった。
 「木下さんなら仕方がない」
 というような許容の態度を示した。人徳だ。それはいうまでもなく、わたしが藤吉郎に感じた、
 「天性の人のよさ」
 によるものだ。天性の人のよさというのは、そのまま、
 「仏性を持っている」
 ということだ。これがつまり木下藤吾郎における品性なのだ。だから、多少品行が悪くても、多くの人が許してしまう。そういう得なところが藤吉郎にはあった。藤吉郎は敏感だから、調査の過程で使用人たちの薪のピン撥ねを知った。が、かれはそのことを胸の中に納めた。そして、こういった。
「お主たちが家で必要な薪は、後でおれが何とかするよ」

■いわなくてもわかる部下

<本文から>
信長は自分の部下を三通りに分けていた。
一 いわなくてもわかる部下
二 いえばすぐわかる部下
三 いくらいってもわからない部下
 「三」の部下はどうしようもない。しかし「二」の部下も、命令しなければわからないのだから、時間がかかる。そこへ行くと「一」の部下は、あ・うん(吐く息と吸う息)の呼吸、あるいは以心伝心で、信長の考えを言葉にしなくてもたちまち理解する。そして、与えられた権限内でその仕事をいわれる前に仕上げる。信長が木下藤吉郎に命じたのは、そういうことであった。藤吉郎もその辺の呼吸は知っている。

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