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<本文から>
長州藩は
「武士は役に立たない。本当に戦争に強いのは農民や庶民だ」
ということを実証したのである。この話を聞いて栄一の胸の中は複雑だった。かれははじめから農民の立場に立っている。武士が嫌いだ。士農工商の身分制も頭の中では否定してきた。それを、こともあろうに幕府に盾ついた長州人が実行して見せたのである。
渋沢栄一は自分がじっと凝視してきた一般の世の中の潮流や世論とは別な地下水脈の流れが、正しかったことを改めて知った。世間でいわれる、”世の中を変える運動法則”よりも、ヒタヒタと静かに流れてきた、”地下水脈の運軌法則″の方が、はるかに強かったのである。
栄一はしみじみと思った。
(この地下水脈の運動法則がやがて日本を変えるだろ) |
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