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<本文から>
彼は眼を一つ失ったために、
「親をはじめ、みんなが自分を見捨てた」
と思い込んできた。が、そうではなかった。いつも脇にいて学問を教えてくれる虎哉が、きょうは人生の勉強をさせてくれた。しかも、自信をあたえてくれた。
「心身の障害など、何も気にすることはありません。逆にそれが輝きを持つように、ご自身なりのご努力をなさい」
と言ってくれたのである。帰り道、虎哉はポツンとこう言った。
「若君、わたしはかなりの高齢になりますが、いつも思うことがあります」
「何でしょう」
政宗の問いに虎哉はこう答えた。
「敵は、決して外にいるのではなく、自分の中にいるのだということです」
「敵が自分の中に」
政宗は歩きながらその言葉をつぶやいた。そして、頭の中にしまい込み、また引き出して、こう聞いた。
「わたし自身の敵は、わたし自身だということでございますね」
「そのとおりです。その反省を、この愚かな僧は毎夜繰り返しております」
虎哉はそう言った。しかし政宗は、そうは思わなかった。
(こんな知識の深い和尚様がそんなはずはない。和尚様は、わたしをいたわってくださっているのだ)
と感じた。
虎哉和尚が恐ろしい形相をした不動明王を見せたことによって、少年政宗の性格は変わった。政宗は、
「敵は自分の中にいる」
と虎哉の教えに従って、自分の敵を発見した。それは、はにかみ性であったが、
「なぜ、はにかむのか」
と追究してみれば、意外に、
「自分自身へのこだわり」
にあることが発見できた。つまり、
「いまのままの自分をそのまま保ちたい」
という、自己改革をいやがる気持ちがそうさせていたということに気がついたのである。政宗は、以後自分の中にいる敵の絶滅″に力をそそいだ。 |
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