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<本文から>
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ
三好達治さんの代表的な詩だ。読んだり、暗記した詩を口ずさんでまちを歩いたりしても、この光景が頭の中にすぐ浮かんで来る。雪の重みと寒気に、豪雪地帯で育つ子供たちは次第に睡魔に襲われる。そういう厳しい辛さから逃れるために、三好さんは、
「雪の厳しさ・辛さを忘れるように、二人の子供を眠らせてやってくれ」
と、雪に頼んでいるのではなかろうか。
この詩を書いた短冊が、かつてあった渋谷権之助坂の「六兵衛」という寿司屋の壁に掛かっていた。三好さんは、六兵衛の常連客だった。ぼくも何度か会ったことがある。しかし、ほとんどつまみを取らないで、酒だけをグピリグビリと飲み続けていた。いつもにこにこ笑っていて、なぜか若いくせにこんな高い店に出入りするぼくを、テラリと慈愛に満ちた眼で三好さんはいつも凝視し続けた。 |
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