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<本文から>
永倉新八がききこんできた噂が試衛館一門の、というより沖田宗次郎のその後の運命を一変させてしまったからである。永倉がききこんできた噂というのは、
「幕府が尊壊浪士隊を募集している」
ということであった。しかもその責任者には、牛込二合半坂に住む旗本松平上総介という男がなって、毎日、希望者に面接しているという話である。
近藤勇の講武所指南役失格の話がそれほど漏れたわけではあるまいが、あれ以来、どうも道場はパッとしない。多摩河畔の農民門人たちの態度も、心なしか変わったような気がする。ひがみだろうか。
「どうするか……」
試衛館一門は、永倉の話にひじょうな魅力を感じて腕をくんだ。最後までロをきかなかった土方歳三が、近藤と沖田に、
「ちょっと話がある」
と別室へ誘った。
「何だ」
とけげんな表情をする近藤に、土方は、
「浪士隊にはいろう」
とはっきりいった。何かいいかける近藤をおさえて、
「近藤さん、おめえさんが講武所の指南役になれなかった理由はかんたんだ、おめえさんが百姓の子だからよ。人材登用だ、野の遺警出でよ、なんぞといってみたところで、そんなことは実のねえお題目さ。所詮、百姓の子は百姓さ。だがな、それは江戸のことで、おれは京都はすこし事情がちがうような気がする。というのは、いま、日本の政治は江戸のことで、おれは京都はすこし事情がちがうような気がする。というのは、いま、日本の政治は江戸で回っているンじゃねえ、京都で回ってるンだ。政治の渦の中にとびこめば、侍も百姓もねえ。そんな気がする。幕府が募集している浪士隊というには、おれは何かうさんくせえものを感じてしかたがねえが、とにかく京都へ行こうじやねえか。うまくいえねえが、何かおれたちがやれることのきっかけがこの京都行きにはあるような気がする・・・」 |
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