|
<本文から> 与右衛門の論旨は、
・真の儒者とは、自己の気質と人欲を抑え、心中に潜む明徳を明らかにして、本然の性に立ちかえることである。
・もしその説が世間に入れられる時は、人々を善導し、天下を平和に維持する。
・世に入れられない場合でも、道をおこなってわが身を全うする。
・ところが最近のわが国の儒者は、ただ聖人の書をあれやこれやと漁り、ただ広く読んで字句解釈にうつつを抜かし、実行を全く心掛けない。そのために、かえって世間の人々を惑わし、誤らせている。
・この罪は、仏教徒よりも大である。
・菅玄同は、その代表である。
・すなわち玄同は、己の博学を人にひけらかして自慢し、人間としての完成を怠った人面獣心の俗人である。
・だから、本来なら善導すべき弟子の安昌を、浅薄な学識を盾に、豚や犬に対するような扱いをした。
・弟子の安昌にも心があるから、ついに怒りとか恨みの念をもって、師を殺害するに至った。
・しかし、玄同のこの死は自ら招いたものであって、いわば天の命によるものだ。偽学者の玄同は、たとえ安昌に殺されなくても、いずれは不慮の死を遂げたに違いない。
・こんな偽学者である菅玄同を褒め諾え、真の儒者などと賞賛する林左門も、また偽学者たるを免れない。つまり、左門自身が浅薄な学識しかないために、このような過ちを犯すのである。
|
|