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<本文から>
「正季は、だんだん兄の考えがわかりはじめた。このことは、いつも正成が口にしていたことだ。正成は自分が水の分水樺を持ち、また略を行なって、奪った年貢を地域の民衆に分け与えているように、あくまでも地域の人々を愛していた。しかし、正成一人がいくら悪党ぶって、略を続けてもたかが知れている。日本の仕組みそのものが、大きな欠陥を持っていたからだ。仕組みの中で最も悪いのが、公家や大きな寺社の存在だ。つまり、何も働かないで、居食いをしている連中だ。正成が語った激しい言葉の中には、明らかに、
「権力者としての公家も武士も亡ぼしてしまいたい」
という考えがあった。困窮民衆を基盤にした新しい勢力というのは、おそらく正成自身のような悪党連中をいうのだろう。正季は、胸の底を奮わせた。
(兄は、悪党の群れでこの国を乗っ取るつもりなのだ)
と思ったからだ。そして、その頂点に、帝を戴こうというのだろう。帝を戴いて、その下に悪党の群れが直結しようという企てだ。中間の公家も、鎌倉幕府も一挙に吹っ飛ばしてしまおうという考えだ。何と恐ろしいことを考え出したものか、と正季は興奮すると共に、果たして成功するかどうかと危うんだ。が、正成は常に静かな面持ちを湛えているので、心の中の熟さに比べて興奮の様は見せない。 |
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