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<本文から>
「藤九郎の島だ。」
人間はいない−とにかく水をさがそう、五人は岩をのほりはじめた。
五人は知らなかったが、この由は、いまの鳥島であった。
土佐の中浜から室戸岬、潮ノ岬の沖と東に流され、そこから伊豆七由を左に見ながら南に流されて、ついに鳥島まで流されてしまったのである。
その頃、日本では「遠島」といって、非人を島に流す刑罰があったが、それも、せいぜい八丈島ぐらいまでで、こんな速い島まで流されることはなかった。
(もう日本には帰れないのではないか)
島の位置がわからないながらも、五人の不安がますますつのった。ひとかたまりに集まって、じっと遠い沖を見つめるのだった。
「こんなところでは船も通るまい」
筆之丞がぼつんといった。五右術門が泣きだした。
しかし−
こうなると、もう万次郎はくよくよしていなかった。岩から岩をとび歩き、やがて海水が浸食してできた大きなほら穴を見つけた。ここなら風も吹きこまないし、満潮になっても海の水も入ってこない。
「住む家にちょうどいい。」
万次郎はにっこり笑った。持ち前の冒険心が、再び頭をもたげたようであった。 |
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