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<本文から>
再び小舟に乗って馬関(下関)に戻る途中、高杉は険しい顔で春輔にきいた。
「春輔、おまえは勝手に賠償金を承知してしまったが、どうやって払うつもりだ。だいたい、あのエゲレス人に何を話したんだ」
「長州はすってんてんで、一文も金はありません。どうしても賠償金金がとりたいのなら、幕府からとりなさい、といっただけですよ」
春輔はそう答えた。
「なに・・・」
「だってそうでしょう。去年の五月十日以降、外国船を撃ち払えといったのは幕府なんですからね。長州は、忠実にその命令に従ったまでです。国際法上、非は命令老にあります。イギリス側にはそう話したのです」
国際法上そんなとりきめがあるのかないのか、わからないが春輔はそういった。高杉は改めて春輔を見つめた。そして、
(とうてい、こいつの心臓のつよさにはかなわない)
と思った。
高杉はつぶやいた。
「長州藩は、幕府にいよいよにくまれるな…」
「そのほうがいいんです。孤立すれはするほど、藩は結束しますよ」
春輔はそう応じた。が、胸の中は不安でいっはいだった。自分は大変なことをしてしまったのではないか、という反応が突きあげていた。その不安を抑えつけるやけくそみたいないいかただった。しかし、そういう春輔の肩を、高杉は大きく叩いた。そして笑った。
「おれもそう思う。春輔、よくやったぞ!」 |
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