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<本文から>
おどろいて山県は限をむいた。まさか利助が反撃に出てくるとは思わなかったのだ。利助はつづけ
た。
「その例をいおう。ひとつ、利助という名はぼくの親がつけた、君の世話にはなっていない。第一、利助という名をそこまで拡大解釈するのは君の深読みだ。また、ぼくの常に対する冒済でもある。謝罪を要求する。また、吉田先生は松下村塾の門人はすべて異体同心だといわれた。互いに呼びあうときほきみ・ぼくでいこうといわれた。先生も率先実行しておられる。ましてぼくも君も同じ仲間だ、身分に上下はない。だかち君にきさまと呼ばれるいわれはない。取消しもしくは謝罪を要求する。さらに、あらゆる権力者をぼくが利用しているというが、一見、そのように見えることをぼくは否定しない。しかしなぜそうするのか、君はぼくの目的をきいていない。ぼくは君たちの攘夷国防論を否定はしない。しかしぼくはその前にしたいことがあるのだ…」
すでに怒りのかたまりになって、即座に反論しょうと真っ赤になってすきを狙っている山県を冷ややかな目で見ながら、しかし利助はその機会を与えずにつづけた。
「ぼくほこの隣り村の貧しい農家で育った・・・」
自分の生いたちから語りはじめ、やがてお津和の話をした。峠での上士たちの乱暴ぷりを話した。結局、できそこないの萩焼をどう安く売ってみたところで食ってはいけず、お津和は馬閑の女郎に身を売ったことを話した。
「こういう娘をそのままにしておいて、何が国防か、攘夷か。ぼくはまずお津和のような娘を救うことからほじめたい。それができるカを自分で持ちたいのだ!」
自分でもおかしな気分になるほど熱いことばがつぎつぎと出てきた。 |
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