|
<本文から> 宝暦十一年(一七六一)六月十三日、今度は親友の小河仲粟が死んだ。まだ九十歳だった。
死ぬ時、心配したその妻が、
「あなたにもしものことがあったら、今後私たちはどうしたらいいのでしょう?」
と聞いた。仲栗は死に向いつつあったが、薄く目を開いて、
「何も心配することはない。細井が何とかしてくれる」
と答えた。言葉どおり、小河仲栗が死んだ後の家族の世話は全部細井平洲がした。仲栗には二人の子供があって、上が宝暦六年に死んだ男の子の爵、下が女の子で鼎といった。平洲は、仲栗の未亡人とこの鼎を引きとって自分のところで暮させた。そして、女の子が成人して嫁に行く日まで面倒を見、立派な嫁入り仕度をしてやった。それほど平洲の友人や女人の家族に対する情は厚かった。
|
|