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<本文から> 「くどい御念」
「はははは。ちと、くどかったが、まあゆるせ。じつは時息殿からわれらへたいし、土よい、九郎義経を放すと見せて、じつは武蔵坊なる者に、かくかくの策をさずけてあれば−と、苦衷を打ちあけての御談合に、一同、合点はしたなれど、さて、武蔵坊弁慶とて、どれほどな勇ある着か、また、時忠殿のことばに、偽りなきや否やも、心もとなく思われたゆえ、宴を外して確かめに来たわけぞ」
「いかさま、公達方らしい御懸念かな。大言には似たれど、六方者のうちでも、いささか聞こえのある弁慶とは、御存知もなかろうほどに」
「いや、安心した。この由、ほかの人びとへも、急いで耳打ちなしておこうぞ」
資盛は、物蔭につぐなんでいた従者をつれ、かなたの一門の内へ大股に戻って行った。 |
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