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<本文から>
まず第一に、呂和が引立てられて来た。呂布は身長七尺ゆたかな偉大漢なので、団々と、巨大な鞠の如く縄をかけられたため、いかにも苦しげであった。
自門楼下の石畳の上にひきすえられると、彼は、階上の曹操を見上げて、
「かくまで、辱めなくてもよかろう。曹操、おれの縄目を、もう少しゆるめるように、吏へ命じてくれ」と、いった.
曹操は苦笑ををたたえて、
「虎を縛るに、人情をかけてはおられまい。−しかし、口がきけないでも困る。武士
ども、もうすこす手頸の縄をゆるめてやれ」
すると、主簿の王必があわてて、遮った。
「滅相もない。呂布の猛勇は尋常な者とはちがいます。滅多に憐憫をかけてはなりません」
呂和は、はったと王必を睨めつけて、
「おのれ、要らぎる差し出口を」
と、牙をむいて噛みつきそうな顔をした。
そしてまた、眼を階下に並居る諸将に向けた。そこには魏続や俣成や宋憲など、きのうまで自分を主君とあがめていた者が、曹操の下に甘んじて居並んでいる。−呂和
は、眼をいからして、その人々の顔を睨めまわし、
「汝らは、どの面さげて、この呂布に会えた義理か。わが恩を忘れたか」
侯成は、あぎ笑って、
「その愚痴は、日頃、将軍が愛されていた秘院の女房や寵妾へおっしゃったらいいでょう。われわれ武臣は、将軍から百杖の罰や苛酷な束縛は頂戴したおぼえはあるが、将軍の愛する婦女子ほどの恩遇もうけたためしはありません」と云い返した。
呂布は、黙然と、うなだれてしまった。
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