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<本文から> 直家は五十余人の総勢のうち、十人を屋形と城の留守居に置き、逃げる敵を追う。海賊の人数は味方に倍するが、直家たちの奇襲をうけ、陣形を乱したので、反撃の態勢をととのえられない。
直家たちは宙を飛ぶように走り、兵船の碇泊している浜辺に迫った。
「あれを見い。やっとるぞ」
直家は海上を指さす。
篝火を燃やす三腹の兵船から、十六人の宇喜多勢が射かける矢をうけた海賊たちは、水際で右往左往していた。
彼らは兵船の人影をめがけ、さかんに矢を射かけるが、舷に立てつらねた掻楯のかげにいる直家の家来たちは、巧みに身を隠して防ぎ矢をするので、多くの海賊が矢を受けた。
直家は引き連れてきた同勢に命じた。
「まだ斬りこむんは早いけえ、しばらく矢戦をせえ」
闇中で弓弦が鳴り、軍兵たちのかけ声がひびく。
海賊たちは横手から矢を射かけられ、度を失った。
「こりや、いけん。もう支えられんぞ。船を取り返すまでに、皆やられようぞ。散れ、散れ。ここにおりやあ、皆殺しにされらあ」
彼らは、槍を担ぎ四方へ逃げ走る。
直家らは、すかさず彼らのあとを追った。
ふだんは残忍な所業に慣れた鬼のような海賊たちも、追ってくる城兵の足音を聞くと、魔物に襲いかかられるような恐怖に駆られ、悲鳴をあげ、息をきらせて逃げるばかりである。
直家は敵に追いすがり、槍を横薙ぎに振って倒し、家来にいった。
「それ、こやつの首をとれ」
彼は、足をもつれさせてよろめき逃げるあらたな敵を、背中から突く。槍先に胸板をつらぬかれた相手は、空をつかみ倒れる。すばやく槍を手もとに引いた直家は、つぎの敵を求めて走った。
半刻ほどの戦いで、宇喜多勢は海賊五十余人を倒し、十余人を生け捕りにした。
「海賊の船は、乙子の浜へまわせ。生け捕りにした奴輩は、弓を引けんように肱の筋を切って追い放せ」
宇喜多勢は兵船に乗りこみ、櫓を操って磯伝いに乙子へ戻った。
翌朝、直家は戦勝の祝宴をひらいた。
犬島海賊に大打撃を与えた直家の声威はあがった。直家をほめたたえる評判を聞き、彼のもとへ復帰する旧臣があいついだ。 |
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