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<本文から> 十年ほど前に私は、徳川吉宗を主人公とした『南海の龍』という小説を書きました。その時、吉宗というのは非常に賢い人物であったということが印象に残っています。この小説では吉宗が将軍になるまでを書いたのですが、今度もう一度最初から洗い直して生涯を書いてみようというようなつもりで、『大わらんじの男』を書きはじめたわけです。
吉宗という人物は、『南紀徳川史』によりますと、たいへん理性的で、生涯大きな声を出したことがなかったとか、感情に動かされることのない人物であったようです。そういう点で、我々がとても及び得ないような、ずいぶんスケールの大きな人だということを感じます。
また吉宗は、「堪忍」と自分で書いた額を居間に掛けていました。それはよっぽど堪忍しなければ人は使えない、人はついてこないという自らへの戒めでもあったでしょう。また、人は大体、六分目か七分目働けばいいほうだと、そういうようなことも彼はいっています。 |
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