|
<本文から> 腕組みして聞いていた源左衛門は、顔をあげた。
「よし、分かった。お前のやったことはまちごうてない。高島の家は商人の血筋でないさけ、無理ないわなあ。ほや、お前は、これからどうするつもりや」
「百姓するよ、お父はん。俺は一生懸命に田畑作るよ。俺は何事にでも打ちこんでいきたいんや。作物相手なら、物いうこともいらん。わが力をいれたら、それだけの収種あるんやさけ、俺にはいちばん向いてるんや」
源左衛門はうなずいた。
「なるほど、気持ちはよう分かった。しかし、儂から見たら、お前の根性は、なみの百姓づれのものやないぞ。お前なあ、強い人間になりたいことはないか。武芸者みたいにのう、誰にも負けん猛者によ」
隆之助は、突然耳にした言葉に心をゆりうごかされた。
強い男。それは隆之助の胸のうち深く、埋もれている願望ではなかったか。天変地異のもたらす死の恐怖にも負けない、サムハラ様のような霊力に守られた強者が、年来の彼の理想像であったのだ。
「なりたいよ、お父はん。俺は、誰よりも強い男になりたい。ほんまに、小っさいときから俺の願うことは、金剛不壊の力を持った男になることやったんや」
「よし、ほや明日の朝から、体鍛えはじめよ。はじめはなあ、走ることや。どげな武芸でも、足腰弱かったら話にならんのや。まず第一に、足から鍛えていけ」
「よっしゃ、そうするよ。明日から夜の明けんうちに、山に登って走るれえ。お父はん、そんなにしたら、俺はほんまに強うなるやろか」
「おう、まちがいない。お前はひとかどの武芸者になれる性やと、儂は呪んでる。体は小っさいけど、相撲とらしても筋のええ取り口をみせるし、なによりも研究する心があるさけのう。いっそなるのなら、日本じゅうに名を轟かすほどの武芸者になるつもりで、体鍛えてみよ。ほいたら、力はいくらでも湧いてきて、おのずから自分の進む道はひらけてくるよ」
源左衛門の言葉に、隆之助はふるいたった。強い男になれば、進む道はひらけてくるのだ。 |
|