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<本文から> 「この眼は、人間の眼ではない」
備前守は、新右衛門の眼が、欄々と炬火のような光彩に燃えたつのを見た。
彼は青眼の剣尖の狙いを、新右衛門の喉もとにつけた。新右衛門は、無念無想であった。備前守はかまえを解いた。
「新右衛門、手のうち見届けたぞ。見事じゃ」
備前守は、新右衛門の姿勢に鉄壁のようにゆるがぬ強さを感じた。打ちこんでゆける隙は、どこにもない。そのうえの業前をたしかめる必要はなかった。
二人は大勢の客が待つ広間へ戻った。備前守は一同に告げた。
「新右衛門は鹿島神霊のご加護によって、まさしく剣術開眼、虚心の道理を得てござる。拙者ただいま、しかと見定めて参った」
わあっ、と列座の人々の間に、歓声があがった。
「よかったぞ、めでたや」
「祝着、祝着、このうえなし。当流の名をあげてたもれ」
新右衛門は熱気あふれる言葉にとりまかれた。
備前守に業前保証の折紙をつけられたうえは、新右衛門には名実ともに鹿島七流の代表者としての名誉と責任が与えられたわけであった。
祝いの座についた新右衛門に、養父安幹が聞いた。
「そなたが神より授けられし技は、何と名付けるのか」
新右衛門は深い思いをこめた眼で安幹を見た。
「おそらくは世にこのうえなき、ただひとつの太刀と存じますれば、一つの太刀と呼ぶことにいたしまする」
「一つの太刀か、それはよき名じゃ。そなたは鹿島随一の兵法者となったのじゃ。鹿島随一はすなわち、天下随一なれば、このうえは塚原の地にとどまらず、ふたたび諸国を遊歴して、当流を弘布してくりやれ。剣をもって天下に惟神の道をひろめるのじゃ」 |
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