津本陽著書
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          開国

■開国した井伊は最後の強力な保守リーダー

<本文から>
 積雪のなか井伊家の五、六十人の行列へ斬りこんだのは、水戸脱藩者ら十八人である。
 五つ(午前八時)過ぎであった。大名行列を見物するふりをしていた彼らは、刀とピストルを用い襲いかかり、悌惨をきわめた乱闘をくりひろげ、直弼の首をとった。
 直弼は幕府の権力回復をひたすら志し、家政の大獄によって反村勢力を薙ぎ倒した。梅田雲浜、橋本左内、頼三樹三郎、吉田松陰ら多数が投獄され死んだ。
 彼は開国をしたのち、国力充実を待って摘夷をおこなう念願を抱く、幕府における最後の強力な保守派リーダーであった。
 彼が世を去って、老中の座にあるのは安藤村馬守ひとりを例外にしてまったく撫能な者ばかりになった。
 開国を機に政情は動揺をつよめてきた。幕府に替って海外から押し寄せてくる圧迫に対抗しうる新勢力はまだあらわれていないが、幕府の権威は衰弱するばかりである。
 日本の前途は風声ただならない間にとざされ、暁はまだ遅かった。

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