|
<本文から> 益満は不機嫌な声になった。
「貴公らはすべて、芝浦沖から軍艦で京都へゆく中部になっている」
山田はうなずき、口をつぐむ。
このうえ益満の機嫌をそこねるようなことをいえば、暗殺されかねない。
山田の推測のとおり、益満は彼を警戒しはじめていた。
(気をつけねば、こやつは浪士隊から脱走しかねない。監察のうちでも人望のある男だが、隊の結束を乱すなら斬るよりほかはあるまい)
腕の立つ山田を殺すには、鉄砲を用いるか不意打ちをかければよい。もっと簡単な方法は、毒殺である。
(そのうちに、押し込みの手違いを起こして死ねば、手間がはぶけるが。いましばらく様子を見ることにするか)
山田の態度が変わってきたのは、内藤縫之助を斬殺したのちであった。
江戸撹乱の手先に使われ、盗賊の所業をあえてしている自分の将来に抱いていた不安が、内藤の処断を機に、頭をもたげてきたようであった。
益満は山田の推測が的中しているのを知っていた。西郷ら薩藩首脳は、浪士隊に江戸で御用盗をはたらかせたのちは、後日に悪事の証拠をのこさないよう、彼らを解散させようと考えているにちがいなかった。
解散させるよりも、薩長が幕府と開戦したとき、彼らが先陣に立って戦い、全滅するのを望んでいる。
わざと危険な戦闘に駆りだされるおそれは、多分にあった。益満は西郷の腹心として目をかけられていたが、もしかすると自分も浪士隊といっしょに蒸発させられることも、ないとはいえないと、危ぶんでいた。 |
|