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<本文から>
亀若たちは思案する。
「せっかくここまできたんやさけ、行てみまひょら」
三人は、四つん這いにならねばならない狭い場所を幾度も通り抜け、半刻あまり歩いた。
やがて行手に明りがみえてきた。
「あそこが出口やな」
どのような場所へ出るのであろうと、好奇心に押され、三人は足早に進んだ。
穴の出口には、槍を持った男がいた。番人であろうが、木洩れ陽をうけ昼寝している。
亀若たちは外をのぞいた。
そこは三方を険しくそびえる山腹にかこまれ、南の方角だけがひらけたひろい草原であった。
緑樹が茂り、牛馬が草を食んでいる。草葺きの民家がいくつも眼につき、清流には水車がかかっている。
草地のなかに、巨大な六角の堂宇が見えた。
屋根の勾配が急な、二階建てであった。二階の楼上には吊鐘がさがり、一階の広間には大勢の男女がいて、琵琶を弾く音がきこえてきた。
笑い声、話し声も聞える。食物のにおいもただよっている。三人は息を呑んで、巨大な堂宇を眺めた。
「若はん、あれはほ黄金づくりや。柱も壁も、屋根の瓦まで全部黄金やのし」
亀若の耳もとで、次郎三郎がささやく。
堂は初夏のさえわたる陽射しのなかで、まばゆくかがやいていた。
「ここはお寺の坊んさんがいうてた桃源郷みたいな所やな。儂らはこのまま去のら」
亀若は、緑殊に手真似でひきあげようといった。
緑妹はうなずき、堂にむかい手をあわせ礼拝した。
三人が酒亭にもどると、倭冠たちはにぎやかに酒を酌みかわしていた。金平が立ってきた。
「おっ、若はんに次郎やんか。どこへいてきたのよし」
「ちとこの辺りをば、見物してきたんよ」
「見物てかえ、なんぞええ物あったかのし」
「いや、何もなかったよ。ああ腹へった。飯でも食おかえ」
「ここにゃ、ええ酒あるよし。酔うて寝なはれよし」
寝台に腰をおろした亀若のそばへ、緑妹がきた。
「何や」
彼女はてのひらをひろげてみせた。
親指と人差し指を輪にしたほどの大きさの金塊が、てのひらに乗っていた。 |
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