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<本文から> 五峯は亀若たちの規律に従った行動を、注意ぶかく見ていた。
馬場に着くと、五峯の家来が永楽餞の孔に糸を通し、槙の古木の枝に吊した。糸は一尺ほどで、揺れがとまったのちも、風が吹くと永楽銭は左右に動いた。
「あれでも打てるかと、聞いてなはるが、気遣いないわのう」
源次郎が聞くと、若衆のあいだからまばらな笑い声がおこった。
「源次郎はんが知ってることやのになあ」
若衆たちは二列横隊に、馬場の一隅に整列し、鉄砲に弾丸硝薬をこめ、糊杖で突く。
「さあ、一人ずつ射っていけ」
源次郎がいうと、亀若が答えた。
「一人ずつやと手間もかかるさけ、十二人ずつ打とかえ」
亀若の希望に応じ、一町先に杭が二本立てられ、それに渡された横木に、十二個の永楽銭が吊される。
支度がととのうと、亀若が号令をかけた。
「前の列、構えてよ」
声に応じ、前列十二人が、膝台の構えになった。
鉄砲の火挟みをおこしつつ左膝を立て、火縄を吹いてはさむ。つぎに台尻をとって鉄砲を胸まえによこたえ、右手中指で火蓋をきる。
「狙うてよ」
若衆たちは台尻を頼にあて、照準をきめる。
「放してよ」
十二挺が同時に轟然と発砲し、黒煙が立ちこめた。
一町先で、白旗が十二度振られた。全弾命中である。
五峯たちは溜息をつき、たがいにせわしく話しあっている。
「後の列、前に出よ」
後列の十二人が前列といれかわり、亀若の慣れた号令に従い、発射する。
こんども的をはずした者は、ひとりもいなかった。 |
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