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<本文から>
「つまり、竜馬のなかには、なにかしら光り輝ける者が住んでいる。それは観音像といってもいい。どういうわけか、その者は女性の容姿をもっている。
この輝ける者は、生れつき竜馬のなかに入っていたにちがいないが、それを彫琢し、眼鼻をつけ、衣裳のひだをつけ、手足の爪までほりきざんだ者は、竜馬のたった一人の教師である乙女姉さんだった。だから、彼女がきざんだ像は、女性像になってしまったのかもしれない。
これが、竜馬の監視をするのである。女性の眼で、監視をするのだ。いい男になれ、と。ときには竜馬に意地のわるい眼つきをし、ときにはひどく寛容な眼で微笑してくれる。ところが竜馬はこの女性像に惚れこんでいるから、頭をかかえて服従せぎるをえない。
ところが、である。
こまったことがある。
この観音像の顔が、ときによってかわることだ。原則としては観音さまなのだが、そのときが一番多いのだが、ときには福岡のお田鶴さまに似ていたりする。お田鶴さまだけではない。
まったく困りはてたことに、いまのところこの千葉家のさな子にも、すこし似ているのである。竜馬の、
(こまった)
は、それであった。
竜馬を監視している観音像が〔さな子という生き身の姿をとって意地わるをしているのだから、手におえるはずがないヒ |
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