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<本文から> 浄土寺 分っております。しかし、何ごとにも時期というものがあります。事態はさし迫っております。もはや、少しの猶予も許されぬのです。
富子 (笑う)まるで天下の一大事が起ったような、(からかうように)何をそんなに気負い立っていらっしゃるのですか。
浄土寺 御台所はご存じのはずです。管領畠山家の一族のうちの内輪もめ。と申すのは、畠山政長と畠山義就との間の家督相続をめぐる根の深い争いです。
富子 いまさら、何を目くじらを立てて。あの二人の争いは、もう十年も前から続いていることですよ。
浄土寺 ところが、細川、山名の対立が、畠山の両派の対立にからみあって、事態はもう、滝つ瀬がごうごうとたぎり落ちるような、合戦寸前の差し迫ったところまで来ております。お分りでございましょう。畠山一族の内紛に乗じて、細川、山名が、弓矢で事を決しようとしているのです。戦いがはじまります。その戦いは、この京の街だけではない、一波が万波を呼ぶがごとく、諸国津々浦々まで波及し、あちらの大名、こちらの小名、それら無数の家々が、それぞれ、家督争い、所領争いをこの機会に解決せんものと、一方が細川を頼れば、他方が山名を頼る、といったぐあいに、中央の争いはすでに地方の争いに、地方の争いはただちに中央の争いにと結びついているのです。 |
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