司馬遼太郎著書
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          新撰組血風録

■新選組のおそるべき隊規

<本文から>
  新選組にはおそるべき隊規がある。
 新選組をして史上最強の殺戮団の名を高からしめたのは、かれらが選りぬきの剣客ぞろいであったことにもよるが、それよりも秋霜のようにきびしい隊規があったからでもある。
 近藤と土方は、人間の性は臆病であることを知りぬいていた。この二人はすでに武家社会でほろんでいた伝説的な武士道をもって隊士を律し、いささかでも未練臆病のふるまいのある者は、容赦なく断首、暗殺、切腹に処した。結党以来、死罪に
なった者は二十人を下らない。
 たとえは、古来、武家の常法とtて大将が討死すれば兵は引きあげてもかまわないことになっていたが、新選組にあっては、
−組頭がもし討死した場合は、組衆はその場で討死すべし。
 というすさまじい隊規があった。また激闘中に、朋輩の死体を後方にひきさげることも禁じ、
−はげしき虎口において死傷続出すとも組頭の死体のほかはひき退くことまかりならず。
 いずれも、戦国の武士の風習にさえなかった律則であった。
 さらにおそるべき隊規は、
−私事で斬合いにおよんだとき、相手を莱さず自分のみが傷を負うた場合、未練なく切腹すべし。
 というものであった。相手を倒す以外に死をまぬがれる法がないために隊士はいよいよ剽悍にならざるをえなかったのである。篠原泰之進が、自分の傷を発見したときおどろいたのは、この隊規があったからであった。相手ほすでに逃げていた。
しかも手傷は、後ろ傷だった。まぬがれぬと思った。

■新撰組は強烈な郷党閥、流儀閥の意識で動いている

<本文から>
新選組は、隊士のいのちなど、ちりほどにも思っていないところだ。多くの有為の材が、切腹、断首、捨て殺しにされてきた。その新選組が、井上源三郎程度の男のために、なぜこれほど騒がねばならぬ。
(そういう仕組みに出来ている)
福沢圭之助は、見ている。この新撰組を牛耳っているのは、天然理心流の同郷仲間たちなのだ。近藤、土方、沖田、そして井上。沖田、井上には政治性ほないが、かといって局の機密はかれらだけで握っている。たとえば、初代局長芹沢鴨を倒し近藤が新選組の棟梁になったときも、暗殺に動いたのは、土方、沖田、井上で、江戸以来の同志であるはずの藤堂平助、斎藤一も加わらなかった。強烈な郷党閥、流儀閥の意識で新選組は動いている、と常州出身の福沢圭之助はおもった。

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