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<本文から>
新選組にはおそるべき隊規がある。
新選組をして史上最強の殺戮団の名を高からしめたのは、かれらが選りぬきの剣客ぞろいであったことにもよるが、それよりも秋霜のようにきびしい隊規があったからでもある。
近藤と土方は、人間の性は臆病であることを知りぬいていた。この二人はすでに武家社会でほろんでいた伝説的な武士道をもって隊士を律し、いささかでも未練臆病のふるまいのある者は、容赦なく断首、暗殺、切腹に処した。結党以来、死罪に
なった者は二十人を下らない。
たとえは、古来、武家の常法とtて大将が討死すれば兵は引きあげてもかまわないことになっていたが、新選組にあっては、
−組頭がもし討死した場合は、組衆はその場で討死すべし。
というすさまじい隊規があった。また激闘中に、朋輩の死体を後方にひきさげることも禁じ、
−はげしき虎口において死傷続出すとも組頭の死体のほかはひき退くことまかりならず。
いずれも、戦国の武士の風習にさえなかった律則であった。
さらにおそるべき隊規は、
−私事で斬合いにおよんだとき、相手を莱さず自分のみが傷を負うた場合、未練なく切腹すべし。
というものであった。相手を倒す以外に死をまぬがれる法がないために隊士はいよいよ剽悍にならざるをえなかったのである。篠原泰之進が、自分の傷を発見したときおどろいたのは、この隊規があったからであった。相手ほすでに逃げていた。
しかも手傷は、後ろ傷だった。まぬがれぬと思った。 |
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