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<本文から> ある夜、盛親耕は田鶴の手足を動けないようにして、まず小袖を剥ぎ、下に襲ねたものを一枚ずつ剥いだ。田鶴は、最後の布がその下半身から除かれるまでは必死で抗ったのだが、ついに力をうしなった。盛親は灯あかりのなかで、田鶴の体を濁として見た。盛観の手が田鶴の女に触れた。それらは、盛観がいままで接したどの女よりも、みごとに成熟していた。田鶴のあどけなさを思うとき、むしろ盛観は裏切られたような気にきえなったほどである。
しかし、盛観は田鶴の顔をみた。田鶴は泣いていた。大粒の涙をこばし、唇をまげ、まるで童女のような泣き方だった。やがて声を出し、ついには手のつけようのない泣き方で泣きはじめた。
(これほどりっぱな大人の体をもっているくせに)
盛観はおかしくなった。この利口な娘は、明るくて子供っぽい自分の性格を、人一倍つよい羞恥心をかくす武器としてたくみに使っているようだった。
「泣きやめい。もうせぬわ」
そこが、盛親の柔弱なところかもしれない。つい、田鶴の羞恥心をまもることに盛親は協力してしまった。男なら、田鶴の感情などはしんしゃくせず、カをもって田鶴の体を切りさくべきであったろう。女に対しても、また、土佐二十二万石の大領を率いて立つ場合にも、盛観のこの性格は微妙に働いた。しかし田鶴にすれば、そういうやきしさこそ、悔いなく好きだったのである。 |
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