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<本文から> −日本人は、いつも思想はそとからくるものだと思っている。
とはまことに名言である。ともかくも日本の場合、たとえばヨーロッパや中近東、インド、あるいは中国のように、ひとびとのすべてが思想化されてしまったというような歴史をついにもたなかった。これは幸運といえるのではあるまいか。
そのくせ、思想へのあこがれがある。
日本の場合、思想は多分に書物のかたちをとってきた。
奈良朝から平安初期にかけて、命を賭して唐とのあいだを往来した遣唐便船の目的が、主として経巻書物を入れるためだったことを思うと、痛ましいほどの思いがする。
また平安末期.貿易政権ともいうべき平家の場合も、さかんに宋学に関する本などを輸入した。さらには室町期における官貿易や私貿易(倭超貿易)の場合も同様だった。
要するに、歴世、輸入の第一品目は書物でありつづけた。思想とは本来、血肉になって社会化さるべきものである。日本にあってはそれは好まれない。 |
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