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<本文から> 庄助は、笑いだした。単に枯草というだけで、草の名にはならない。女真人は蒙古人のように遊牧しないため、草に関心がうすく、いちいち名をつけないのである。要するに名などはない。女真では、草の名を知りたければ蒙古人にきけ、などという。
「わかった。わしの女真名を、オラハにしよう」
「庄助、なぜ、女真名をつけるのです」
「従軍するのさ」
その後、庄助は大汗ホンタイジに謁を得ていない。しかし大汗のほうでは庄助の存在をわすれてはおらず、ときどきバートラに諮問していることを庄助は知っていた。あるとき大汗は、
「かの者は、日本の甲胃をたずさえているか」
と、バートラに下問した。
「否」
と答えればいいものを、篤実なバートラはいちいち御前をさがって内城のそとの「日本府」(といって、ありようは庄助の住まいにすぎないが)にやってきて、実否をたずねるのである。甲胃など持っていない、と庄助が答えると、
「そうだろうなあ」
と、すずしげに笑い、そのまま内城にもどって復奏する。 |
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